好きになんかなってたまるか 発売記念SS 「エッチの誘い方」

 

※本編のネタバレを含みます。

まだお聞きいただいていない方はそちらをご留意の上でお読みくださいませ。

 

八木と暮らし始めてから数ヶ月が経ったある日のこと。

俺は仕事の都合で一週間ぶりに帰宅した。

 

「あれ、橘じゃん。やっと帰ってきたんだーお疲れー」

「ああ。お前は休みか?」

「うん、シフト休みー。暇だし、ぼちぼちパチでも打ちに行こうかなーって思ってたところ。

でもお前がいんならいーや」

 

八木はニコニコしながらソファに座って手招きしてくる。

ソファに腰掛けると肩にもたれ掛かってきた。

 

(なんだ……可愛いことするじゃないか)

 

誘うように寄せてきた唇をすくい取るように口づけてやると、矢継ぎ早に舌を入れ込んでくる。

女遊びが激しかっただけあってこいつはキスが上手い。

 

「んっ……ふぅっ……んっ……」

 

貪るような接吻に飲まれないように俺からも舌を絡ませると、ぴちゃぴちゃと水音が響く。

濃厚な口づけの末、口を離した瞬間互いの唾液で糸が引いていた。

艶めいた光景をぼうっと見つめながら八木は俺の下腹部を擦る。

 

「ひひっ、橘君勃ってるー。なあに? 俺とのキス久しぶりだから興奮しちゃったー?」

「何言ってるんだ」

 

茶化すように聞いてくる八木の下半身を強く握った。

 

「いてて! お前! そこはもっと丁寧に扱えよ!」

「お前だって、このザマじゃないか」

「何言っちゃってんのー? これ、ただの朝立ちだしぃ?」

「もう昼だぞ」

「うるせえ、俺はさっき起きたばっかなんだよ」

「いくら誤魔化そうとしたって無駄だ。ヤりたくて誘ってきたんだろう?」

 

八木は何とも言えない顔をする。

ソファに押し倒し、勝ち誇った笑みで見下ろしながら首筋を口づけていく。

 

「あっ……んぁっ……橘ぁ……」

 

八木の口から甘い声が漏れる。

首筋から鎖骨にかけてキスの雨を降らしながら服を脱がしていった。

 

「なぁ……橘……俺さ……給料日前で今、金ねぇんだ」

「おい。今する話じゃないだろ」

「良いから聞けよ。欲しい服あんだけど、金足りなくてさー。

だから一発ハメるごとに諭吉恵んでくんね?」

 

八木は俺に組み敷かれながらヘラっと笑う。

どこの世界に恋人とセックスするのに金をせびるヤツがいるんだ。

怒りがこみ上げてきた俺の脳裏にある考えが浮かんだ。

 

「わかった。それなら俺の部屋に来い」

「おっ、さすが橘。話早いねー。お前となら女と違ってムード作る必要もねぇから楽だわー」

 

更に付け加えられた余計な一言に苛立ちが募る。

俺の部屋まで移動すると、八木は自らベッドに寝っ転がった。

 

「お前のベッド最高—。俺の部屋より良いやつじゃん。なぁ、俺もこれがいい」

「いちいち要求が多いやつだな。寝てないで俺が用意している間に服脱いで待ってろ」

「へいへい。つーか、用意ってなんだよ。またオモチャ試すのか?」

「ああ、ちょうど新しい商品を入荷したんだ」

 

服を脱いで無防備になっていた八木に背後から近づき、首にあるものを付けた。

八木は首につけられた物を見て、ぎょっとして声を上げる。

 

「へ? これって、まさか首輪!?」

「ふっ、似合うじゃないか」

 

八木の首に付けたのはうちの会社の新商品であるアダルトグッズの首輪。

赤い革製でリードも付いている。

 

「犬は二本足でなんか立たないだろ? 四つん這いになれ」

「お前マジでやべえって……俺でも、こんなプレイしたことねぇよ」

「お前の『はじめて』の相手になれて光栄だ」

 

口端を上げて笑うと、八木はいつもの如く強がってみせる。

 

「はっ、なんなら犬らしく芸の一つでも見せてやろうか? 

三回、回ってワン—? ちんちんー? ほーらご主人様ぁ、俺のこと褒めてぇー?」

「黙れ、興が削がれる。四つん這いになれと言ってるだろう。さっさと言う通りにしろ」

「へいへい、わーったよ」

 

八木は半場投げやりの状態で四つん這いの体制になる。

尻の割れ目を指でなぞると、八木の体はぴくっと反応を見せた。

 

「俺が留守にしている間、ひとりでイジってたか?」

「さあな」

「答えないなら体に聞いてやる」

 

割れ目を左右に引っ張ってやると、ヒクヒクとアナルが収縮する。

ヒクつかせたアナルに指を添えただけで俺の指を飲み込んでいく。

中は適度に解れていて、ぬるっとしたものが指先に触れた。

 

「おい。中にローション残ってるぞ」

「へー、触っただけでローションだってわかんだ。さすがアダルトグッズのシャチョーさんは違うね—」

「憶測で言ったが、やはりそうだったか」

「あっ、クソっ! こいつカマ掛けやがったな!」

「そんなにシたかったんだな。だが、すぐに褒美を与えてやるのは惜しい。

お前は犬なんだから待てが出来るようにならないとな」

 

八木の尻を片手で弄りながら、ベッドの引き出しを開ける。

引き出しからペニスリングを取り出して八木の陰茎に装着した。

 

「なっ……お前って、ほんっと射精管理好きな!?」

「お前の様な駄犬には躾が必要だろう? 俺が満足するまでイカせてやらないからな」

「うわ、ひでぇーご主人様—」

 

ぶつくさ言う八木の背後で自らの服を脱ぎ捨てる。

そそり勃った自身を入り口に押し当て、そのまま一気に奥まで貫いた。

 

「あああぁっ……! おっ……お前っ……

いつもゆっくり入れろって……ああっ、うっ……い、言ってるじゃんかぁ……」

「良さそうな声を上げて説得力ないな。ほら腰引くなよ」

 

首輪についた手綱をグッと後ろに引いて八木の体を引き寄せる。

すると、八木は苦しげに悶えながら息の詰まるような声をあげた。

 

「ぐっ、うっ……お前っ……急に引っ張んじゃねぇよっ……首絞まったらどーすんだよ!」

「それくらい加減はしてやってる。それに我が社の製品はパートナーの安全を……」

「お前のくどい商品説明はもう良いんだよ! 耳にタコができるくらい聞いた!」

 

律動を始めると、八木はギチギチと俺のモノを締め付けてきた。

顔が火照ってきて、八木のモノも勃ち始めている。良くなってきている証拠だ。

俺は期待に答えるように律動を早めて、腰を激しく打ち付けた。

 

「あ、あっ、んっ、あっ……橘ぁっ……待ってっ……激しぃっ……止まってぇ」

「お前は犬だと言ってるだろ。何度いったらわかるんだ?」

 

自身を入り口まで引き抜いて奥深くまで腰を打ち付ける。

 

「——っ、ぃああぁっ」

 

八木は雄叫びのような嬌声をあげながら大きく背中を反らす。

その瞬間、アナルが力強く締め付けられ意識を持っていかれそうになるが寸前で思いとどまる。

 

「はぁ……はぁ……」

 

八木は乱れた息を整えながら口を半開きにさせて、放心状態でぐったりする。

リングでギチギチになるまで締め付けているため射精が出来ない。恐らくドライでイッたのだろう。

今に始まったことではなく、俺とのセックスで八木は何度もドライイキをしている。

繰り返し快感を与えたことにより通常の射精よりも癖になっているはずだ。

 

「橘ぁ……これ、取って……」

「ドライイキ良いだろう? もっと覚えろ」

「や、やだぁっ……!」

 

下腹部に伸ばした両手を後ろに回して、掴みながら腰を引き寄せる。

 

「ああぁっ……! んぁっ……ああっ」

「お前は後ろでも十分、気持ちよくイケるだろ? 俺がそういう体にしたんだからな」

「ひ、ぐっ……やめろっ……俺……このままじゃ……マジで女になる……っ」

「ふっ、それはいいな。お前は放っておくと女とヤりかねない。

嫌というほど女じゃ得られない快感をお前の体に教えこんでやる」

 

快感をねじ込むように乱暴に腰を揺さぶると、八木はぐずり気味で俺に懇願してくる。

 

「はあ、はあ……橘ぁ……俺……もう出したい……イカセてぇ……頼むからぁ」

 

俺はその言葉を無視して腰を振り続けた。

その間、八木は何度もドライイキを繰り返す。

 

「ひっぐっ……うっ……もうや、だっ……前、苦しいっ……イキたぃっ……」

 

八木は喘ぎながら泣きじゃくる。

気は失っていないが締まりきらない口からはヨダレが溢れ出て、瞳は熱っぽく潤んでいる。

もう限界に近いのだろう。さっきまでの威勢もなくなってすっかり意気消沈している。

 

「八木。ベッドから下りて、立て」

「無茶言うなぁ……もう腰砕けて、動けねぇよぉ……」

「イキたいんだろう? 俺の言うことを聞け」

 

八木は息を乱しながら、むくりと起き上がって床に足を付ける。

フラフラな体を支えながらベッドの横の壁に手を付けさせて、無理やり片足をあげさせた。

 

「なっ……お前、なんつー格好させてんだよ!」

「お前は犬なんだろ? このまま足上げて射精しろ」

「はあ? ふざけんなよ、お前……!」

 

食いかかってくる八木を黙らせるため、片足立ちの体制で再び挿入する。

 

「ああっ、んあっ……や、ん、ああっ……!」

「イキたいんだろう? ほら、外してやる。イケよ」

 

律動しながら八木に装着したリングを外すと、弾けるように白濁の液が飛び散った。

 

「はぁ……はぁ……橘ぁっ……な、なんか出るっ……」

「もう出してるだろ」

「違、くてっ……あ……も、もうだめ……あ……」

 

力が抜けて崩れ落ちそうになった八木の体を支えると

射精しきったあそこから橙色の液体が溢れ、床に落ちていった。

 

「これ潮じゃないな……まさか漏らしたのか?

大の大人が首輪付けられながら失禁するなんてお前はとんだ駄犬だな」

「や、やだぁっ……と、止まって……あっ……あ……」

 

そう言っても止められず八木は失禁を繰り返す。

 

「こんな醜態、もう女の前じゃ晒せないだろう。

何が一発ハメるごとに金を恵んでくれ、だ。最後まで搾り取ってやるからな」

 

それから数時間後——。

八木はぐったりしてベッドに寝そべっている。

後始末を終えてから、隣に横たわった。

 

「八木……体は平気か?」

「ケツいてぇし、頭ガンガンするし、最悪だよ!」

「それは残念だな。お前を連れて買い物でも行こうかと思ったんだが」

「へ、なんで?」

「欲しい服があると言っていただろう」

「なに、マジで買ってくれる気でいたわけ? 別に、今は特に欲しい服なんか特にねーけど」

「ならさっき強請ってきたのは何だ」

「そ、それは……お前が最近仕事で忙しくて構ってくんねぇから金を口実にして誘ったんだよ!」

「は?」

 

八木は顔を真っ赤にして恥ずかしそうに視線を外して続ける。

 

「今まで黙ってりゃ女の方から誘ってきたし、今更どうやって誘ったらいいかわかんねぇんだよ!

それだけじゃなくて、周りからはお前雰最近囲気変わったねーとか言われるし、

もうAVじゃ抜けなくて、お前の動画見ながらアナニーキメちゃってるし……っ!

ああ、もう……マジでどうしてくれんだよ……っ! 

俺、女が好きだったのにこれじゃガチホモじゃねぇか……!」

 

八木は嘆きながら枕に顔を伏せる。

愛しさがこみ上げてきて後ろから八木の体を抱き締めた。

 

「そんなに俺のこと好きか?」

「お前とのセックスは悪くねぇけど?」

「今更照れ隠しなんかいいだろ。いいから良い言え」

「うわ、出たよ。お前の西◯カナの歌詞並みに愛を確かめてくるメンヘラ癖!

会いたくて震えてろよ!」

「そうか。新しいデンマを仕入れたんだ。お前の股間に当ててやろう」

「俺のちんこは震わせなくていいんだよ!」

 

男がセックスでドライイキを繰り返すと、

女性ホルモンが開花して心と体が女性に近づき、男性的な性欲が減少するという。

もしかしたら、八木にもその兆候が現れているのかもしれない。

 

「つまらない意地なんか張ってないで、最初からお前を抱いてればよかったな」

「ああ……お前、高校の時から俺のこと好きだったんだよな。

一緒に暮らしてたし、抱こうと思えばいつでも抱けたのになんで手ぇ出さなかったんだよ?」

「体だけの関係とか、俺はそういうの嫌なんだ。

いくらオモチャを使えても、お前自身を性の道具みたいには扱いたくなかった」

「俺がフェラした時、口に出さなかったのってそういうこと?」

「お前と違って、俺は気持ち関係なく肉体関係を結べない人間だからな」

「ははっ……お前のそういうピュアなとこなんだかんだ言って好きだわー」

 

八木は改まって口にすることはないがこういう風にさらっと好きだと言ってくれる。

本音に近い気がして嬉しく思えた。すっかり絆されていると……。

 

「あと、メシ食わしてくれるところと、金持ってるところとも好きだな!

俺がまた仕事クビになっても生活安泰だしぃー? 俺専属のATM! みたいな!?」

 

(こいつ……やっぱりクズだ)

 

今すぐ俺の感動を返してほしい。

俺はすぐさま八木の手首を拘束して、先程話題に出したデンマにアタッチメントを付けた。

八木はわなわな震えながら聞いてくる。

 

「た……橘くーん? まさか、その強化した武器を俺に使うわけじゃないよなぁー?」

「察しが良いな。その通りだ」

「おいおい! こっちは散々、お前にケツ掘られてボロボロなんだよ!

んなもん突っ込むとか容赦な……っ」

 

言い終わらないうちにアタッチメント付きのデンマを突っ込んでスイッチを入れる。

 

「あああぁっ……! こ、こいつっ……やりやがった! マジで悪魔だ! 鬼畜だ!」

「そうだ。今日は取引先の会食があることを忘れていた。夕方までには戻る」

「はぁ!? 待てよ! こんな姿で放置されたら、俺死んじゃうだろ!」

「リングは付けないでおいてやる。また洩らすなよ? じゃあ行ってくる」

「橘ぁー! 行かないでー! さっきの嘘だから!」

「仕方ない。最後に弁解を聞いてやる」

「俺専属のATMって言ったことだけは謝る……せめて財布って言うべきだった!」

 

俺は容赦なくデンマの強度を上げた。

 

「あああぁっ! い、今のも冗談っ……ほんと、つい口が滑った、だけでっ……!

俺……お前のこと……ちゃんと愛してるよ? 橘くんにぞっこんフォーリンラブ!?

愛してる、マジ愛してる!」

 

必死に俺を引き留めようとする八木を完全に無視して無言のままドアに向かって歩く。

 

「橘ー! 戻ってきてぇー! 俺がお前に会いたくて震えてる! ついでに股間も震えてる!?

ああ、もう、自分でも何言ってるかわっかんねぇっ……

あっ、んっ……あっあっ……マジで頼むからぁ……ああっ、ん、あっ……これ抜いてぇー!!」

 

俺は最後まで無視を決め込んで部屋から立ち去った。

 

「くそっ、あいつ……マジで行きやがった……畜生、帰ってきたら覚えてろよぉー!」

 

八木の嘆き声を聞いて笑みを浮かべながら家を後にする。

ちなみに取引先と会食があるというのは嘘。

コンビニかどこかで適当に時間を潰して30分くらいしたら戻ってくるつもりだ。

 

(帰ってきたらあいつどんな顔するんだろうな。

八木の好きな飯でも作って、今夜は甘やかしてやるか——)

 

今まで他人と暮らすなんて考えたことはなかったが、

八木との生活を心から楽しんでいる自分がいる。

騒がしい日常がいつまでも続けばいいと密かに願うのだった。

 

//END